愛による全面受容と心の癒しへの道(102)

峯野龍弘牧師

第7章 「ウルトラ良い子」を健全に育てるための「アガペー育児法」

Ⅲ、第2期 3歳から6歳までの幼児期後半の幼児教育

さて、ここで「アガペー育児法」の次の段階に進んでみましょう。これは満3歳を過ぎた頃から満6歳頃までの時期で、これを称して第2期と呼ぶことにしましょう。言うまでもなく子供にも個人差があり、これはあくまでも目安であって、大体この頃と理解して育児教育に当たっていただければよいのです。

それでは如何なる点に留意しながら、この時期の子育てをしたらよいのでしょうか。それは概ね以下の通りです。

A、 人間関係における調和の精神と感性の育成

そこでこの時期に先ず心に留め、しっかりと育成しなければならないことは対人関係、人間関係における調和の精神と感性の育成です。これはごく優しい表現をすれば「他人と仲良く過ごす道」を教えるということです。人間が人間としてふさわしく人生を過ごして行くためには、「人間関係が円満である」ということほど、重要な資質と事柄は他にありません。そもそも「人間」という文字が「人の間」と書くように、お互い「人と人との間」の関係を麗しく調和のとれたものとしておくことは、社会生活を営むためには必須な事柄です。

しかしながら、既に皆様がよくよくご存知のように、今日の社会には対人関係がまろやかには結べず、いわゆるウルトラ良い子たちに限らず、多くの一般人の中にも対人関係不全症候を呈している人々が、少なくありません。これは人間関係のトラブルに巻き込まれ、長い間悩み、苦しみ、傷ついてきた結果として、そのような症状を呈するに至った人々もおれば、また幼い頃の精神的発育成長期に、十分な育成を受けることができなかったことが原因である場合もあるのです。そこでこの後者の場合のケースが、今ここで取り上げようとしている「ウルトラ良い子の育児教育」第2期の「3歳から6歳までの幼児後半の育児教育」の主要テーマでもあるのです。

では、如何にしてこの時期に子供たちの「人間関係における調和の精神と感性の育成」を図ることができるのでしょうか。

1 愛することの大切さを教える

「人間関係における調和の精神と感性の育成」とは、これをズバリ表現すれば「愛することの大切さを教える」ことに他なりません。ある古の聖徒が「愛することの大切さを教えないことは、両親の子供に対する最大の罪である。」と言いました。またある教育者が「子供に愛することの重要性を教えないことは、知識ある動物を飼育することである。」とも言いました。いずれもまことに至言です。

幼な子に如何なる知識・教育を施し、また良い躾・行儀作法を教えても、もし愛することの大切さを教え、他者との調和を図り、また仲良く過ごすことの出来る心と感性を養い育てることに失敗するなら、やがてその子供は自己中心で自己主張の強い、他者を受容することの出来ない人間に育つでしょう。まさにそれは“動物のような人間”を育ててしまうことになります。

そこで何よりも重要なことは「愛することの大切さ教える」ことなのです。そしてこの「愛することの大切さ」を教え、「他者と和合する心と感性」は、まさにこの時期からしっかりと養い育て、培うことが肝要です。この時期を失してはなりません。なぜならこの時期には、彼らの脳はこのことの大切さを理解し、自らの意志でこの大切なことを実践するのに必要な思考能力を最小限ではあっても、充分完備しているからです。そしてまたこの大切な時期を失すると、彼らの内に自我や我執が徐々に強く形成され、今度は素直に学習し難くなってしまうからです。ですからこの好機を逃してはなりません。

ここで更に一言大事なことを付記しておくとするなら、もちろんこれよりも早い時期に「愛することの大切さ」を教えてはならないというのではありません。教えてもその意味を自ら十分理解するには、まだ不十分なのです。それよりもこのより幼い時期には、両親が大きな豊かな愛を注ぐことによって、我が子に「愛されることの喜び」を十分体験させてあげることが大切です。そうすることによって、後に「愛することの大切さ」を教えられる時、より早く理解し、学習することができるのです。概して「多く愛された者こそ、多く愛することが出来る」からです。またこの第2期を過ぎた後には、もう「愛することの大切さ」を教える必要がなくなるというわけでもありません。それは更に第3期を迎えても、継続して教え続けるべきですが、それは第2期のフォローのためであって、この時期から始めたのではもはや手遅れとなってしまいます。ですから第2期にしっかり育成しなければならないのです。

では、具体的にはどのような点に留意して「愛することの大切さ」を教えたらよいのでしょうか。 (続く)

峯野龍弘(みねの・たつひろ)

1939年横浜市に生れる。日本大学法学部、東京聖書学校卒業後、65年~68年日本基督教団桜ヶ丘教会で牧会、68年淀橋教会に就任、72年より同教会主任牧師をつとめて現在に至る。また、ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会および同教会の各地ブランチ教会を司る主管牧師でもある。

この間、特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン総裁(現名誉会長)、東京大聖書展実務委員長、日本福音同盟(JEA)理事長等を歴任。現在、日本ケズィック・コンベンション中央委員長、日本プロテスタント宣教150周年実行委員長などの任にある。名誉神学博士(米国アズベリー神学校、韓国トーチ・トリニティー神学大学)。

主な著書に、自伝「愛ひとすじに」(いのちのことば社)、「聖なる生涯を慕い求めて―ケズィックとその精神―」(教文館)、「真のキリスト者への道」(いのちのことば社)など。