安らかに心豊かな人生を過ごすための道しるべ「主と共に、主イエスに倣って」(7)

峯野龍弘牧師

第3章 主と共に歩む生涯の必要性と重要性

Ⅱ.主と共に歩み、主に似るものとなることは、人間の本分である

さて、このように人間が神と共に歩み、御心を行い、主に似る者となるよう創造され、しかも更に創造主である主ご自身からそのように生きるようにと要請されているのですから、「主と共に歩み、主に似る者となる」ことこそ、お互い人間の本分であると言うことが出来ます。

この本分を明確に認め知って主と共に歩み通して、神の御許に迎えられた典型的な人類最初の模範者は、「エノク」でした(創5:22~24)。創世記の記録によれば、筆者は、人類最初の人間アダムからノアまでの間の系図の中でただ一人、エノクについてだけ、たった四節しか記されていない僅かな記録の中で、二度までも重複して「神と共に歩み」(同5:22,24)と言う言葉を明記しています。しかも、他のすべての人物紹介の最後には、「そして死んだ」と言う言葉をもって結んでいるのに、エノクに関してだけは「神が取られたのでいなくなった」(同24b)と言う言葉で結んでいます。これは他の人々にはるかに優ってエノクがその全生涯を通して、「神と共に歩んだ」極めて優れた人物であったことを示唆していたのだと思います。

ずいぶん以前のことですが箱根のケズィック・コンベンションの折に、今は亡き名説教者ポーロ・リース博士が、非常に感銘深いメッセージを取り次がれたことがありました。それはまさに「神と共に歩んだエノク」についての言及でした。それによれば「ある晴れた日の秋の夕暮れに、一人の少女が大好きなおじさんと仲良く手を繋ぎながら、だんだんと西空に沈み行く夕日に向かって、緩やかな坂道を登って行きました。その二人の後姿を微笑ましくずっと見守っていると、やがて遠のいて行く二人の姿が輝く夕日の中に、あたかも吸い込まれるように溶け込んで、すっかり見えなくなってしまいました。そのようにエノクも大好きな主イエス様と仲良く手を繋ぎながら共に歩き続け、天国への坂を上りながら、死んだのではなく、いつまでも歩き続け、遂に輝く永遠の御国に登って行ったのです」と言うメッセージでした。そこにいたお互いは深い感動をもって、この説教を拝聴しました。エノクは死んだのではなく、主と共に歩み続けて、そのまま主イエスと共に天まで登って行ったのだとは、何と美しい「主と共に歩む」人生の象徴的描写でしょうか!これこそお互いの主にある人生の歩みの理想像です。是非そのようでありたいと願うものです。

ところで祝福に満ち溢れたクリスチャン生涯を生き抜くための秘訣があるとすれば、それはやはり「主と共に歩み、主に似る者となる一筋道を登る」と言うことではないでしょうか。この点での模範者は、同じく旧約聖書の中に登場してくるヨセフです。ヨセフは、いついかなる時にも自らと共におられる主を仰ぎ見つつ、その生涯の坂道を登った人と言えましょう。ですから聖書はヨセフのことをこう記しています。

「主がヨセフと共におられたので、彼はうまく事を運んだ」(創39:2)。また「主がヨセフと共におられ」(同39:21,23)と特記しています。この表現は、主の方がヨセフと共におられたと言う、主ご自身を主体として表現されていますが、いわばヨセフはいつどこにおいても主ご自身に見守られていたと言うことで、これほど「主と共にいる」ことが保証付きの幸いな人生はありません。ですからヨセフは、この主が共におられると言う恵みを存分かみしめていましたから、彼もまた「主と共に歩む」人生の重要性を深く認識して、彼の波乱に満ちた人生を常に共におられる主を仰ぎ望みながら、歩んだに違いありません。それゆえ彼の生涯上の最も重要な場面で、共におられる主を見失うことなく人生を歩み通して、遂には逆境の地エジプトで、エジプトの全土を支配する王に次ぐ宰相(顧問)の地位を占めるまでに至ったのでした(同45:8)。

ですからお互いキリスト者の本分は、他ではないこの一事にあるのだと言っても過言ではありません。それにも拘わらず多くの人々がこの本分を離れ、それ以外の他の道を辿り主の祝福に与ろうと考えています。しかし、それは結局徒労に終わる以外の何ものでもありません。どうか愛兄姉方よ、この本分を忘れることなく、エノクやヨセフの如く、いつまでもどこまでも「主と共に歩む」一筋道を登って行こうではありませんか!(続く)

峯野龍弘(みねの・たつひろ)

1939年横浜市に生れる。日本大学法学部、東京聖書学校卒業後、65年~68年日本基督教団桜ヶ丘教会で牧会、68年淀橋教会に就任、72年より同教会主任牧師をつとめて現在に至る。また、ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会および同教会の各地ブランチ教会を司る主管牧師でもある。

この間、特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン総裁(現名誉会長)、東京大聖書展実務委員長、日本福音同盟(JEA)理事長等を歴任。現在、日本ケズィック・コンベンション中央委員長、日本プロテスタント宣教150周年実行委員長などの任にある。名誉神学博士(米国アズベリー神学校、韓国トーチ・トリニティー神学大学)。

主な著書に、自伝「愛ひとすじに」(いのちのことば社)、「聖なる生涯を慕い求めて―ケズィックとその精神―」(教文館)、「真のキリスト者への道」(いのちのことば社)など。