愛による全面受容と心の癒しへの道(123)

峯野龍弘牧師

第9章「ウルトラ良い子」の癒しのための愛の共同体としてのアガペー・ファミリー

さて、最後に「ウルトラ良い子」の癒しのために極めて重要な役割を果たしてきた共同体があります。それは「ウルトラ良い子」の癒しのために日夜労苦する「愛の学習塾」に身を置く人々、すなわちそれは主に母親たちですが、この彼女たちが「愛の学習塾」やそこでのセミナーを越えて、日々の日常生活の只中に在って常に連携し、連絡を取り合い、交流し、そこで生まれた強い愛によって結ばれた「愛の共同体」であって、これを小僕は「アガペー・ファミリー」と呼んでいます。この「アガペー・ファミリー」の存在は、今や肉親の家族に優る強い愛の絆で結ばれている共同体で、彼女たちは同じ苦悩体験を共通の基盤としてその上に築かれ結ばれた心と人生の同伴者たちでもあって、まさにこの点に関しては“家族以上の家族”であり、実によく心を通わせ、また共に苦悩を分かち合う、それゆえその結果として子供の癒しの大きな喜びをも共に分かち合うことのできる最良の仲間たちなのです。

そこで以下においてこの「アガペー・ファミリー」の素晴らしい存在意義について簡潔に述べておきましょう。

A.孤独感・孤立感から解放してくれる「愛のスクラム」

心傷つき病んでしまった「ウルトラ良い子」を持つ母親たちは、誰しもが強い孤独感・孤立感にさいなまれることがあります。他者と交わることもままならず、時には病める子供が、片時も離れず側で付き添うように要求するため、母親たちはあたかも助けを求める如何なる人々からも引き離され、幽閉された者のように孤立させられてしまうのです。のみならず仮に他者に相談してみても深い同情をかうことは出来たとしても、所詮一向に解決にはつながらないことがほとんどで、結局はまたしても孤立する以外にないのです。その時の悲しさ寂しさ、孤独感は以前にも増さるものがあります。

しかし、このような母親たちにとって「アガペー・ファミリー」は決してそうではありません。このような日々厳しい境遇にあるお互い同士がAFCCを通じて固く結ばれ、結束し、しっかりと「愛のスクラム」を組んで共闘する時、たとえ互いに空間的には離れていても、その空間を超越して互いに祈り合い支え合う時、「決して自分はひとりぼっちではない、自分には強い味方、いつも共に歩むファミリーがいる」と言う思いを強く抱くことが出来るのです。ましておや、今やITの時代を迎えて携帯電話やメール、ラインその他の豊富なSNSを用いて、しかも映像入りで交信することが出来るので、以前にはるかに優って心強いわけです。ですからこのように「愛のスクラム」を組むことによって「アガペー・ファミリー」の存在は、見事に孤独感や孤立感からお互いを解放し、生き抜く力を与えてくれるわけです。

B.体験の共有と癒しの進捗状況を知る「愛のバロメーター」

次に「アガペー・ファミリー」は、お互いの辿ってきた過去の体験をはじめとする日々の体験、極論するならば時々刻々の経験を互いに分かち合うことのできる共同体です。ですから他者が体験した過去の体験や今の体験は、自分が今体験している事柄がどのような意味を持っているのかを知ることの出来るバロメーターになり、その逆に自分が経験したことはまだその経験をしたことのない人々のために、これまた良きバロメーターともなるわけです。ここではこうした体験を相互に分かち合うことにより、子供の癒しのための指針を見いだすことが出来ると共に、その癒しの進捗状況をつかむことが出来ます。つまり自分が今経験している状況が、果たしてどのような状態であるのか皆目わからず不安を覚えているようなときに、「アガペー・ファミリー」の先輩に相談するなら、直ちにその先輩が以前全く同じような状況にあったことがあり、その時どのように対処しその状態を克服したかを話してくれることにより、我が子の癒しのための具体的な指針をつかみ取ることが出来ます。のみならずその癒しの進捗状況も確認することが出来ます。これはただ一人でいたずらに悩んでいた母親にとって、どんなにか慰めとなり、励ましとなることでしょう。ですから「アガペー・ファミリー」の存在は癒しの状況やその進捗状態を確認するための「愛のバロメーター」の役割をも果たしてくれていると共に、大きな慰めと励ましの存在でもあるのです。何とありがたい存在でしょうか! (続く)

峯野龍弘(みねの・たつひろ)

1939年横浜市に生れる。日本大学法学部、東京聖書学校卒業後、65年~68年日本基督教団桜ヶ丘教会で牧会、68年淀橋教会に就任、72年より同教会主任牧師をつとめて現在に至る。また、ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会および同教会の各地ブランチ教会を司る主管牧師でもある。

この間、特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン総裁(現名誉会長)、東京大聖書展実務委員長、日本福音同盟(JEA)理事長等を歴任。現在、日本ケズィック・コンベンション中央委員長、日本プロテスタント宣教150周年実行委員長などの任にある。名誉神学博士(米国アズベリー神学校、韓国トーチ・トリニティー神学大学)。

主な著書に、自伝「愛ひとすじに」(いのちのことば社)、「聖なる生涯を慕い求めて―ケズィックとその精神―」(教文館)、「真のキリスト者への道」(いのちのことば社)など。