愛による全面受容と心の癒しへの道(111)

峯野龍弘牧師

第7章 「ウルトラ良い子」を健全に育てるための「アガペー育児法」

Ⅲ、第2期 3歳から6歳までの幼児期後半の幼児教育(前回からの続き)

C、高潔な品性、人格の基盤となる気質の育

では最後に今一つこの時期を逃さずに両親が我が子の育成のために励まなければならない重要事があります。それは高潔な品性と人格を養い育てるための基盤となる幾つかの気質の育成と言うことです。以下この点について言及してみましょう。

1 正義感と勇気の育成

「ウルトラ良い子」と呼ばれる子供たちは、本来正義感の強い子としての資質を内に秘めている子供たちであると言って過言ではありません。なぜなら、言うまでもなくこの子たちは生まれながらの純粋志向で、更に本質志向の感性を持った子供たちであるので、何が善であり、誰が正しいかを見抜く目を持っているからです。しかし、同時に彼らは温順で、他者配慮に富み、人にやさしい性質を持っているために、相手を困らせたり辱めたりしたくないために、その正しい思いを内に秘め、自分で我慢してしまったり、その思いを他者に知らせたりしたがらないことがしばしばあります。これは彼らの良い資質が裏目に出て,かえってそれが彼らのジレンマとなり、自らの内に抑圧をため込んだり、他者の悪を野放しにしてしまったりする彼らの大きな弱点ともなってしまっているのです。

そこでこの時期にこの弱点を是正し、彼らの良き資質を保護し、更には彼ら自身にとっても、また他者にとっても有効な価値ある尊い気質として強化してあげる必要があるのです。それが「正義感と勇気」の育成です。

ちなみに「正義感」とは、どんなことを意味しているのでしょうか。「正義感」とは、「正しいことを正しいこととして貫いて行く一筋の信念」を言います。しかし、このことを貫き徹すためには「勇気」が必要です。「正しいと思ったこと」を実行し、どんな反対や不利益、時には迫害に遭遇することがあってさえも、それを貫き徹すためには相当の勇気がいるものです。「勇気」とは、どんな反対や不利益、また辱めや危害を被っても、それを貫く徹し、やり抜いて行く気力・気迫を言います。そのためにはしばしば大きな犠牲さえ甘受しなければなりません。この「勇気」は、概して自然に身に着くものではありません。多くの場合は自らの正しさを確信させてくれる信頼する他者、つまり子供の場合は主に両親の力強い励ましが必要です。この力強い、挫けさせない励ましによって、遂にその正しい初心を貫き徹すことが出来るのです。そしてそれを貫き徹したときの大きな喜びと達成感こそが、その次に到来する新たな正義へのチャレンジにたいして、その子を勇敢に立ち向かわせて行く「勇気」の基盤を確実に築くことになるのです。かくしてこうした経験を積み重ねることによって、「勇気ある正義感」をしっかりとその子供の心に植え付けることが出来ます。ですから「正義感と勇気」の育成のためにこの時期の両親の役割は甚大であると言うことが出来ましょう。しかし、ここで培った「勇気」は、単に「正義感」の達成のためばかりではなく、人生のすべての場面で必要な「勇気」をも培ったことになるわけですから、何と意義深く大切なことか知れません。

それにもまして意義深く重要なことは、こうすることによってとかく他者からの抑圧を受け易い「ウルトラ良い子」の弱点を強化し、抑圧を受けにくい子供に育て上げることが出来るからです。こうすることによって「ウルトラ良い子」の感性を守り、更にはそれを強化し、その特性を伸ばし、高めさえすることになるわけです。ですからこの時期の「正義感と勇気」の育成を怠ってはなりません。しかし、意外に多くの人々がこの点について無関心であったり、無知であったりして、この時期のこの大事な点の育成を疎かにしてしまっていることは、甚だ残念なことです。この点もよくよく注意しようではありませんか。(続く)

峯野龍弘(みねの・たつひろ)

1939年横浜市に生れる。日本大学法学部、東京聖書学校卒業後、65年~68年日本基督教団桜ヶ丘教会で牧会、68年淀橋教会に就任、72年より同教会主任牧師をつとめて現在に至る。また、ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会および同教会の各地ブランチ教会を司る主管牧師でもある。

この間、特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン総裁(現名誉会長)、東京大聖書展実務委員長、日本福音同盟(JEA)理事長等を歴任。現在、日本ケズィック・コンベンション中央委員長、日本プロテスタント宣教150周年実行委員長などの任にある。名誉神学博士(米国アズベリー神学校、韓国トーチ・トリニティー神学大学)。

主な著書に、自伝「愛ひとすじに」(いのちのことば社)、「聖なる生涯を慕い求めて―ケズィックとその精神―」(教文館)、「真のキリスト者への道」(いのちのことば社)など。