愛による全面受容と心の癒しへの道(92)

峯野龍弘牧師

第6章 アガペーによるフォローアップ ―神の嘉される8原則―

Ⅲ.さて第三の原則は、「心傷つき病んでいる子供の自尊心を高めよ」と言う点にあります。

これまたすでに記したことですが、心傷つき病んでしまった子供たちは、例外なくと言ってもよいほど彼らの自尊心が傷ついてしまっています。そもそも「自尊心」とは、本来「自らを尊しとする心」を意味し、自分の存在を掛け替えもなく尊く、かつ大切なものであると認識する心の状態を言うのです。これは決して自らを誇り、高ぶらせ、他者より自分の方が上等な人間であると自負することとは全く違います。他者を重んじ尊ぶと同様に、自分自身をも同様に大切にし、自己の尊厳を認め知って、自らその尊厳を滅失させるようなふるまいを慎み、常にあるべき自らを養い育てることに励む心を意味しているのです。ある辞書には「自分の人格を大切にする気持ち」などとコメントされていましたが、今日の社会ではややもすると他者の人格をさえ踏みにじるようなことが横行していますが、よく考えてみますとこうした考え方や生き方は案外、自らを真に大切にし、自らの品位や人格を重んじ、自己の尊厳を失うことのないように謙虚に自らを見つめ自己管理する「自尊心」を喪失してしまっている人々の生き様なのかもしれません。だとするならば現代社会は「心傷つき病んでしまっているウルトラ良い子」たちばかりではなく、一般健常人と思われる多くの人々の中にも、真の「自尊心」の回復が必要ではないでしょうか。

さてそこで「心傷つき病んでしまってるウルトラ良い子」たちは、今も申し上げましたように例外なくこの「自尊心」が傷つけられ、「自尊心」を喪失もしくは滅失してしまっています。喪失・滅失していないまでも、極めて自尊心が引き下げられ、弱められてしまっています。彼らは長い間の世俗的価値観から来る極度の抑圧のゆえに、「自分はダメな者」「他者より見劣りする者」「生きて行く資格のない者」「他者より受け入れられない者」「人から理解されない者」等々と、気の毒なほど自らを卑下してしまっているのです。時にはこの思いが屈折して、真逆に作用してやたらに他者攻撃に出る場合もあります。それはこのように他者攻撃をすることによって、自己を他者より優位・上位の者と自他ともに思わせようとする悲しい一種の偽装行為であって、これは何よりも自分自身の惨めさ、辛さを回避するための必死の自衛行為なのです。勿論、こうしてみたところで一向に「自尊心」が回復されるわけでもなく、かえってこのことによってますます「自尊心」から遠ざかってしまい、自暴自棄に落ちて行くこと以外ではないのです。

そこでこうした彼らにとって必要不可欠なことは、彼らの「自尊心」を高めて上げることなのです。そしてこの彼らの「自尊心を高める」ための最良の手立てこそが、「アガペーによる全面受容」の道なのです。先にすでに学んで来たようにこの「アガペーによる全面受容」の中に、しっかりと彼らを抱き続けて上げることによって、彼らは「自分は愛されている」「大切な人間として受け入れられている」「理解され、重んじられている」「生きて行く資格がある者」「決して見劣りなどしていない」等々の新たな良き自己認識を抱くに至るのです。これこそが真の「自尊心」の回復です。

そして更にこの「自尊心」の回復をより促進するために、彼らの自尊心を傷つける「禁止」「命令」「奨励」の言葉を一切発せず、その反対に彼らの自尊心を高めることに役立つ「感謝」「謝罪」「賞賛」の言葉がけを豊富に与え、暗く、重く、堅く、冷たい表情と対応を払拭し、明るく、さわやかな、優しい、温かみのあるほのぼのとした、ユーモラスな言葉がけと態度をもって、彼らに接し、仕えて行くとき、彼らの自尊心が確実に高められて行くことでしょう。この彼らの「自尊心の高揚なくして、癒しなし」と言っても過言ではありません。このような対応は必ず神に嘉され、功を奏するに至るでしょう。(続く)

峯野龍弘(みねの・たつひろ)

1939年横浜市に生れる。日本大学法学部、東京聖書学校卒業後、65年~68年日本基督教団桜ヶ丘教会で牧会、68年淀橋教会に就任、72年より同教会主任牧師をつとめて現在に至る。また、ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会および同教会の各地ブランチ教会を司る主管牧師でもある。

この間、特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン総裁(現名誉会長)、東京大聖書展実務委員長、日本福音同盟(JEA)理事長等を歴任。現在、日本ケズィック・コンベンション中央委員長、日本プロテスタント宣教150周年実行委員長などの任にある。名誉神学博士(米国アズベリー神学校、韓国トーチ・トリニティー神学大学)。

主な著書に、自伝「愛ひとすじに」(いのちのことば社)、「聖なる生涯を慕い求めて―ケズィックとその精神―」(教文館)、「真のキリスト者への道」(いのちのことば社)など。

感謝、賞賛の言葉を豊かに注ぐ 自尊心の回復