安らかに心豊かな人生を過ごすための道しるべ「主と共に、主イエスに倣って」(15)
峯野龍弘牧師
第5章 主イエスの歩まれたアガペーの生涯の日々
さて、ここで主イエスの歩まれたご生涯の日々を追憶し、主イエスが如何に「アガペーの日々」を過ごされ、御父の御心を全うされたかを追ってみましょう。主は、その御生涯のすべての場面で、「アガぺー道」一筋に歩まれておられました。言うまでもなく主ご自身が、「アガペーの主」であられたからです。
そこでお互いは今、主イエスの歩まれた足跡を訪ね、四つの福音書の中から「アガペーの主」の息づく模範に触れてみたいと思います。
Ⅰ. 主が選ばれた最初の弟子たち
主イエスが、公生涯に入られた時、弟子を選び、彼らを育成し、やがての後継者となさろうとしました。そこである日のこと、主はガリラヤ湖畔を歩いている時、そこに網を打ち湖で漁をしている二人の青年をご覧になりました。彼らは兄弟で、心を合わせて熱心に漁に打ち込んでいました。彼らの名は、ペトロと呼ばれる兄のシモンと弟のアンデレでした。主イエスは、この二人に深い関心を寄せられ、彼らに「わたしについて来なさい。人間をとる漁師にしよう」(マタイ4:19)と声をかけられました。しかし、この時彼らはおそらく、その意味するところが何であるのかを、充分理解することが出来なかったに違いありません。ただ、彼らに突然声をかけられたお方が、余りにも高貴なお方で、彼らは直感的にこのお方が招かれたその道に、自分たちが従うことがお互いの人生にとって最善だと思われたからかもしれません。いやそれ以上に主のご愛と御力が彼らの心を動かして、そのように応答させたのでしょう。そこで彼らは直ちに、網を捨てて主イエスに従いました(同4:20)。その後、しばらくするとまた別の二人の青年が、父親と共に船の中で網の手入れをしているのを主はご覧になりました。そして彼らにも同じように声をかけられました。彼らの名は、ゼベダイの息子たちで、兄はヤコブで弟はヨハネと言いました。何とこの二人も、すぐに父親を残して主イエスに従いました(同4:21~22)。実に、この四人の青年たちこそ、後には主イエスの12弟子の中核を成し、「使徒」と呼ばれる偉大な神の器となった、12弟子中のまさに四天王役を務める人物になりました。そして彼らは多くの人々に神の国とキリストの福音を宣べ伝え、この世と言う「滅びの海」から人々の霊魂を救い出す「人間をとる漁師」となったのでした。
ところがこのような偉大な神の器となった彼らに対して、使徒言行録はわざわざ「無学な普通の人」(同4:13)と断り書きしていることに注目しましょう。そうなのです。彼らは無学で、平凡な一介の漁師に過ぎませんでした。世に出て人々の上に立ち教えたり、指導したりする何の素養も持ち合わせてはいませんでした。通常、世間では指導者を選び、後継者を選任するような場合には、必ず教養のある卓越した人物、将来有望な資質を具備(ぐび)した能力者を物色するものですが、主イエスは全くそれらとは異なり「無学な普通の人」に目を留められました。何よりも高望みせず、平凡な仕事にも心を籠め熱心に従事する、また親許でその仕事を助け、兄弟仲良く働く、無名な人、わけても教えられ易い従順な人物たちに、主は目を留められました。なぜなら主イエスは「アガペーの主」だったからです。真の愛は、人間を分け隔てせず、のみならずあえて「世の無に等しい者、身分の卑しい者や見下げられている者を選ばれ」(Ⅰコリ1:28)、その人々を「役立つ者」(フィレモン11)に変えて下さるお方です。「アガペー(真の愛)は、人を救い、人間を変革する」のです。何と幸いなことでしょう。ペトロとアンデレ、ヤコブとヨハネは、この「アガペーの主」に巡り合い、見出され、その愛の中に迎え入れられたのでした。ここに早くも主イエスのアガペーの片鱗を見ることが出来ます。主イエスの愛は、何と深いことでしょう!(続く)
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峯野龍弘(みねの・たつひろ)
1939年横浜市に生れる。日本大学法学部、東京聖書学校卒業後、65年~68年日本基督教団桜ヶ丘教会で牧会、68年淀橋教会に就任、72年より同教会主任牧師をつとめて現在に至る。また、ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会および同教会の各地ブランチ教会を司る主管牧師でもある。
この間、特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン総裁(現名誉会長)、東京大聖書展実務委員長、日本福音同盟(JEA)理事長等を歴任。現在、日本ケズィック・コンベンション中央委員長、日本プロテスタント宣教150周年実行委員長などの任にある。名誉神学博士(米国アズベリー神学校、韓国トーチ・トリニティー神学大学)。
主な著書に、自伝「愛ひとすじに」(いのちのことば社)、「聖なる生涯を慕い求めて―ケズィックとその精神―」(教文館)、「真のキリスト者への道」(いのちのことば社)など。