信仰生活の羅針盤(23)

峯野龍弘主管牧師

第10章 アガペー共同体である教会の祝福の鍵<前回に続く>

④さて、「第四の祝福の鍵」は、何でしょうか。それは、「主の御言葉の上に基礎を据えた心と生活」です。これは「主の御心にしっかりと従う心と生活」を意味しています。そのためには毎週の礼拝や祈祷会等で御言葉を取り次ぐ説教者が、常に講壇上から正しく、明解に、主の御言葉を忠実に語り、神の御心が何であるのかを、しっかりと伝えている者でなければならないのです。のみならず、その説教者を通して、そこにいる会衆一同が、ただ説教者から良い話を聞き、素晴らしい説教に与ったということに終わらず、その説教者を通じて、その心の中に神の御言葉が深く印刻され、もはや説教者から話を聞いたのではなく、まさに主ご自身がそこに臨在され、聖霊によって自らに直付けに、その御心を語って下さったのだと受け留められるように、説教しなければならないのです。そうすることによって、その説教を聞いた会衆である信徒一同の心の中に、主の御言葉に対する畏敬心(いけいしん)が培われ、日々、御言葉に根差した「御言葉の上に基礎を据えた心と生活」が可能となるのです。このことを思うと、説教者であるお互い教職の責任の重大さを痛感させられます。ただ聖書から話をすれば、説教なのではありません。ましておや聖書の話はごく一部であって、大部分は聴衆が喜ぶであろう興味深い話や、感動話で終始して、それを説教と勘違いしていたとしたなら、いつになっても「主の御言葉の上に基礎を据えたキリスト者」は育たず、「神の御心に従った堅固な信仰者」は生まれないでしょう。ですから、このように考える時、「祝福されたアガペー共同体」を形成する鍵となる「主の御言葉の上に基礎を据えた心と生活」をする一人一人の良きキリスト者を育てる説教者であるお互い教職の責任は、まさに甚大です。

それと同様に、毎週、礼拝や祈祷会、その他の場所で説教を聞く兄弟姉妹たちも、自分たちの好みや関心、そして自分たちの必要に合わせて説教を聞くと言うのではなく、深い祈りをもって諸集会に臨み、聖霊の導きを祈り求め、説教者を通して、今日は、自らに対して主ご自身が、何を御語りに成ろうとしておられるのか、その御心は何であるのかを、しっかりと聞き分けることが重要です。教会は、主ご自身の体であり、そこには常に主ご自身が臨在しておられます。そして説教の講壇は、主が聖別された「主の説教壇」です。そこからその時、主が立てられたその日の説教者を通して、主が語られようとしておられるのです。たとえ、その説教者がどんなに未熟であろうとも、問題ではありません。その説教者が、自らの足りなさをしっかりと自覚しつつ、謙虚に、祈りを込めて,真剣かつ熱心に語っている限り、神はその説教者を用いて、その貧しい言葉を通しても、ご自身の御心を示し、語られておられるのです。それは丁度、民数記22章のバラムとロバのやりとりの如くです。ロバが、抜身の剣をもって行く道を塞ぐみ使いを見て立ち止まったにもかかわらず、バラムにはその道を塞ぐみ使いが見えず、神の御心に背き罪を犯した時の様に、神はロバを通してでも御心をバラムに告げておられたのでした。ましておや、如何に説教がまずかろうと、真心から神に献身して仕えている説教者を用いて、その御心を告げないことがあるでしょうか。ですから、説教を聞く時には、その背後におられる神の臨在を仰ぎ見て、その説教者を通して語り給う「神の言葉と御心」を聞き分けようではありませんか。そのような謙遜な心を持って説教に耳を傾ける人には、主は必ずご自身の御心を聞き分けることが出来るようにして下さるものです。かくして、お互いは常に「主の御言葉の上に基礎を据えた心と生活」を送る者となり、「神の御心にしっかりと従う心と生活」をするキリスト者となり得るのです。祝福に満ち溢れた「アガペー共同体」は、このようなキリスト者によって形成されるのです。(続く)

峯野龍弘(みねの・たつひろ)

1939年横浜市に生れる。日本大学法学部、東京聖書学校卒業後、65年~68年日本基督教団桜ヶ丘教会で牧会、68年淀橋教会に就任、72年より同教会主任牧師をつとめて現在に至る。また、ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会および同教会の各地ブランチ教会を司る主管牧師でもある。

この間、特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン総裁(現名誉会長)、東京大聖書展実務委員長、日本福音同盟(JEA)理事長等を歴任。現在、日本ケズィック・コンベンション中央委員長、日本プロテスタント宣教150周年実行委員長などの任にある。名誉神学博士(米国アズベリー神学校、韓国トーチ・トリニティー神学大学)。

主な著書に、自伝「愛ひとすじに」(いのちのことば社)、「聖なる生涯を慕い求めて―ケズィックとその精神―」(教文館)、「真のキリスト者への道」(いのちのことば社)など。