愛による全面受容と心の癒しへの道(124)
峯野龍弘牧師
第9章「ウルトラ良い子」の癒しのための愛の共同体としてのアガペー・ファミリー
C.先を読む
心傷つき病んでいる「ウルトラ良い子」のケアーに当たる両親やワーカーにとって、「アガペー・ファミリー」の存在は、何とありがたい存在でしょう。その最たる幸いの一つは、何と言っても“先を読む”ことが出来ることではないでしょうか。とかくケアーに当たるお互いがまだ未経験であり、かつ、また、たった一人で孤軍奮闘している場合には、今まさに直面している問題を如何に解決して行ったら良いのか、またその先はどうなってしまうのか皆目先を読むことが出来ず、それゆえなお一層不安が増し、苦悩が深まってしまいます。しかし、同じ問題と悩みを抱え、既にそれを越えて解決してきた先輩たちや仲間が多数いる「アガペー・ファミリー」においては、互いのそれらの経験を親しく分かち合うことによって、「先を読む」ことが出来ます。今こう対処したら次にはこのような道を講ずれば良いとか、もしもその道が不発に終わっても、その場合はこう対処すれば乗り切ることが出来るとか、その行く先が見え易くなり、心にいたずらに不安や迷いを持つことがなく、心安らかにケアーに当たることが出来ます。行く先が読めるか読めないかでは、同じ問題や悩みに遭遇していても、俄然(がぜん)そのための解決への速度が違ってきます。前者では早く、後者では当然遅くなります。のみならずその間に費やすエネルギーは、前者では軽微で、後者では甚大です、そしてその間に受けるストレスも前者は少なく、後者は大なるものがあります。ですから「先を読めるか、読めないか」は、ケアーするにあたって極めて重要な事柄なのです。ですから愛の共同体である「アガペー・ファミリー」の存在とその交わりの輪の中に身を置くことが、如何に幸いであるかが、よくよくお分かりいただけると思います。
D.とりなしの祈りと支え合い ―共に泣き、共に笑う「アガペー・ファミリー」の恵み―
そして更に幸いなことは、互いに“とりなし合い”、“支え合う”ことが出来ると言うことです。とくにクリスチャンである場合には、互いに相手のために“祈り合う”ことが出来ます。これを「とりなしの祈り」と言います。これは大きな慰めとなり、励ましとなり、助けとなります。そして心に不思議な大きな安息をもたらしてくれます。しかし、クリスチャンでない方々でも、今ファミリーの内の誰かが大きな困難や苦しみに直面していることを知ったとするなら、思わずその相手のために見えざる大いなる存在である神に向かって慰めや癒し、折に適った助けがあるように、心から念ずるものがあるのではないでしょうか。このような相手を思いやる温かい思い、熱い心は必ず相手に通じ、また天にも通じるものです。こうした関係を、“とりなしの祈り”の関係と呼んでいます。「アガペー・ファミリー」の中に身を置くことによって、お互いはこの「とりなしの祈り」によって互いに強く「支え合う」ことが出来るのです。もしお互いの力や知恵に限界を感じることがあってもこの「とりなし合い、支え合う」ことによって不思議と守られ、その限界と思えたことでさえ乗り越えることができるのです。人生にはこのような素晴らしい出来事がどれほど多くあることでしょう。これこそ個々人の持つ個人的な力や知恵を遥かに超えた“関係の生み出す不思議な力”、「ファミリーの威力」とでも言ったなら良いのでしょう。そこでこうすることによってケアーにあたるお互いが、“喜びも悲しみも”、そして人生の如何なる難局も、すべて共に分かち合うことの出来るこうした仲間、まさに“愛のファミリー”の存在のゆえに、“共に泣き、共に笑う癒しへの旅路”を、その途上での一切の困難・苦悩・悲しみ・痛みをも越えて、遂にゴールまで歩み続けることが出来るのです。これを“共に泣き、共に笑う「アガペー・ファミリー」の恵み”と呼びたいと思います。(続く)
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峯野龍弘(みねの・たつひろ)
1939年横浜市に生れる。日本大学法学部、東京聖書学校卒業後、65年~68年日本基督教団桜ヶ丘教会で牧会、68年淀橋教会に就任、72年より同教会主任牧師をつとめて現在に至る。また、ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会および同教会の各地ブランチ教会を司る主管牧師でもある。
この間、特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン総裁(現名誉会長)、東京大聖書展実務委員長、日本福音同盟(JEA)理事長等を歴任。現在、日本ケズィック・コンベンション中央委員長、日本プロテスタント宣教150周年実行委員長などの任にある。名誉神学博士(米国アズベリー神学校、韓国トーチ・トリニティー神学大学)。
主な著書に、自伝「愛ひとすじに」(いのちのことば社)、「聖なる生涯を慕い求めて―ケズィックとその精神―」(教文館)、「真のキリスト者への道」(いのちのことば社)など。