愛による全面受容と心の癒しへの道(116)

峯野龍弘牧師

第7章 「ウルトラ良い子」を健全に育てるための「アガペー育児法」

Ⅲ、第2期 3歳から6歳までの幼児期後半の幼児教育(前回からの続き)

C、高潔な品性、人格の基盤となる気質の育
5 他者を重んじ、その徳を高め、決して裁いてはならないことを教える

さて、今一つ重要なことは前述した事柄の裏面にある気質なのですが、決して他人を裁かず、相手の人格を否定したりすることなく、他者の徳を高めるような気質を養い育てることが大切です。この気質は、今日の多くの成人した大人たちの中でさえ欠落してしまっている気質ですが、このような大切な気質はそもそもそうすることの大切さ、そうしないことのいかに悪いことであるかを、人間の人格形成の重要な基礎造りをすべきこの時期に、その意味するところをしっかりと教え込んでいなかったことの弊害であり、結果であると言っても過言ではないと思います。

ちなみに筆者がここで「気質」と呼んでいるのは、いわゆる心理学的な見地からや、精神医学的観点からの専門用語としての「気質」ではありません。また「性質」(性格)とも異なります。主として心理学的、精神医学的 「気質」や「性格」は、いずれも生来のその人が宿している人格的特徴もしくは個性を意味していますが、これらは基本的にその人の内に生涯を通じて存在し、変化したり無くなったりすることのないものです。しかし、筆者がここで用いている「気質」という言葉は、生来のものに加えて人間の成長過程で育成することによって付加された良きものによって、本来の「気質」や「性格」だけでは到底実現できなかった新しい感情や生き方を身に着けることが出来るものを意味しています。この「新しい感情や生き方」を筆者は「気質」とあえて呼ばせていただきました。この「気質」は、この幼児期以降の両親や周囲の良き人々との出会いと交わりを通じて培われ、養われるもので、これがその人の高潔な品性と人格の基盤を形成します。すなわち高潔な品性と人格は、「生来の気質」の上に、後天的な良き教育(思想・哲学・倫理・宗教など)を施すことによって、より優れた新しい感情と生き方を創成し、その結果その人の内に極めてより良い“新しい豊かな感情と生き方”つまり「新気質」を生み出すことが出来るのです。その最たる一つが「相手を裁かない、相手の徳を立て、重んじる」と言う気質です。人間の内には他者と比較し、いずれが優り、どちらが劣っているかを判別する能力がある限り、常に批判や裁きに陥る危険が付きまとっています。しかし、にもかかわらず的確にその違い性を判別しても、決して相手を裁いたり、否定したりすることなく、そのような批判され、裁かれてしかるべき相手に対して、その相手を重んじ、批判や裁きに変えてその人の徳を立てて、親切にその人を励まし、力づけ、教え、諭すことの出来る有徳な品性と人格つまり良き気質は、一朝一夕に培われません。それは幼い内からの良き教育と培いによるものです。そしてこのような良き気質は、生来の気質や性格によって築かれるものでは決してなく、その後の人格形成、人間形成の途上での良き養いによって、その感情と生き方を身に着けて行くものなのです。小さい内から両親によって裁かれて育った子供は、概して他者を同様に裁き易い人間性を身に着けてしまいがちです。極まれに自分が親からそのように裁かれて育ったので,将来自分が親になった時には断じて、自分の子供を裁いて育てないと決意したという人もおりますが、しかし、悲しいかなそれに失敗してしまったという人々が多くいます。ところが幼い頃から真に愛されて育ってきたという人々の内には、他者を裁かず、相手に寛大で、その相手の失敗や過ちを卑しめず、それを受容し、その人の徳を立て、その人を生かす良き気質を身に着けている人々が、比較的に多くおります。主イエスの教えの中に、「赦されることの少ない者は、愛することも少ない」(マタイ7:47)と言う言葉がありますが、これは当然ながらまさに真理だと言えます。ですからこの時期に、ウルトラ良い子たちをしっかりとこうした尊い体験と教えをもって養い育ててあげたいものです。彼らが、新しい豊かな良き気質と生き方を身に着けて行くために!これまた極めて大切なことです。ご理解いただけたでしょうか? (続く)

峯野龍弘(みねの・たつひろ)

1939年横浜市に生れる。日本大学法学部、東京聖書学校卒業後、65年~68年日本基督教団桜ヶ丘教会で牧会、68年淀橋教会に就任、72年より同教会主任牧師をつとめて現在に至る。また、ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会および同教会の各地ブランチ教会を司る主管牧師でもある。

この間、特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン総裁(現名誉会長)、東京大聖書展実務委員長、日本福音同盟(JEA)理事長等を歴任。現在、日本ケズィック・コンベンション中央委員長、日本プロテスタント宣教150周年実行委員長などの任にある。名誉神学博士(米国アズベリー神学校、韓国トーチ・トリニティー神学大学)。

主な著書に、自伝「愛ひとすじに」(いのちのことば社)、「聖なる生涯を慕い求めて―ケズィックとその精神―」(教文館)、「真のキリスト者への道」(いのちのことば社)など。