愛による全面受容と心の癒しへの道(107)
峯野龍弘牧師
第7章 「ウルトラ良い子」を健全に育てるための「アガペー育児法」
Ⅲ、第2期 3歳から6歳までの幼児期後半の幼児教育(前回からの続き)
A.人間関係における調和の精神と感性の育成(前回からの続き)
2 如何にして愛することの大切さを教えたらよいのか。
v. 他者と仲良く分かち合い、譲り合う喜びを教えよ。
前述の他人と良く交わり、仲良く過ごすことが出来るように育てるということとほぼ同様ではありますが、事柄をより明白にし、かつ具体的に捉えやすくするために、あえて重複したように見えるこの点について、項目を改めて以下のように述べてみたいと思います。
つまり自らが他の仲間たちも望んでいるような何か良い物や良い出来事に与った時、その喜びを一人占めせず、それを望んでいた他の仲間たちにもお裾分けし、喜びを分かち合う優しい心遣いや、また何か利害関係が競合するような場合には、相互に譲り合える温かい心遣いこの時期に育むことが必要です。そしてそれが如何に人間にとって大切であり、また人生をより美しく実り豊かなものとして行くことが出来るのかを、この時期に、何よりも彼らの心の内に欲心や邪念が混入し、自己中心な思いや我執が立ち上がり、その心を毒しきらない内に、よくよく体験させてあげることが重要です。そうなのです。自分一人が喜びを独占したままでいるよりも、その喜びを分かち合うことにより相手が共に喜び感謝するのを見、また自分が相手に譲歩して相手にその喜びを譲り渡したときに相手が喜び、自分に感謝するようになることを見届ける方が、どんなにか大きな喜びを自分の人生に齎すものであるかを体験させてあげるのです。これこそが聖書が教えている「受けるよりは与える方が幸いである」(使徒20:35)と主イエス・キリストご自身が語られたという人生における幸福の根本真理です。
実にこのような考え方、生き方を誰よりも喜び受け容れやすい性質に富んだ人間こそ、ウルトラ良い子たちです。彼らは既に何度も学んで来たように生まれながらにして他者受容性や他者貢献的性質を豊かに内に秘めている素晴らしい存在です。ですからこの時期に彼らにこそこのような自らの喜びや幸せを他者と分かち合い、またそのような喜びや幸せを他者と競い合うのではなく、喜んで他者に譲り渡すことによる“愛の喜び”を体験させてあげるなら、彼らはごく自然にと言ってもよいほど、このような美しい人間性と考え方を身に着け易いのです。そして彼らはこの時期にしっかりと「受けるよりも与える方が幸いである」と言う極めて尊い人生観、価値観、つまり人生における幸福の根本真理を彼らの内に確立させることが出来るのです。そうするならば世俗社会のただ中に放置されても決してそれに靡かず、独り占めせず他者と分かち合うことを損とは思わず、また他者に良きものを譲り渡すことを不利益と思わず、むしろそれを喜びとし誇りとさえ思うことが出来るようになるのです。すごいことだと思いませんか。何と神々しい生き方ではありませんか。このような神々しい人生観、価値観、人間性を身に着けるには、この幼少期を失っては極めて困難になるのです。ですからよくよくこのことを親たちがよく熟知して、この時期に良き子育てをしなければなりません。
そしてこのような子育ては、如何にウルトラ良い子と言えども、ただ生まれながらにして潜在的にかかる感性や性質を有していようとも、それをこの時期に引き出し、その事のすばらしさを具体的に日常生活の中で繰り返し体験させ、味合わせて上げない限り、それは育成されず、地に埋められた宝のように生涯葬り去れたものとなり、のみならず錆付き朽ち果ててしまうのです。そしてあたかも初めからそのような尊い資質は存在しなかったもののように、日の目を見ることなく一生を終えてしまうことになるわけです。こんなもったいないことを断じてさせるべきではありません。それは個人的ばかりでなく、社会的にも大なる損失と言えましょう!ですからこの時期の育成、訓練、鍛錬を怠っては断じてなりません。
しかし、今日どれだけ多くの家庭においてこの大なる損失を引き起こしてしまっていることでしょう。まことに悲しむべきこと、無念なことではありませんか!この点において皆様はいかがお思いでしょうか?(続く)
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峯野龍弘(みねの・たつひろ)
1939年横浜市に生れる。日本大学法学部、東京聖書学校卒業後、65年~68年日本基督教団桜ヶ丘教会で牧会、68年淀橋教会に就任、72年より同教会主任牧師をつとめて現在に至る。また、ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会および同教会の各地ブランチ教会を司る主管牧師でもある。
この間、特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン総裁(現名誉会長)、東京大聖書展実務委員長、日本福音同盟(JEA)理事長等を歴任。現在、日本ケズィック・コンベンション中央委員長、日本プロテスタント宣教150周年実行委員長などの任にある。名誉神学博士(米国アズベリー神学校、韓国トーチ・トリニティー神学大学)。
主な著書に、自伝「愛ひとすじに」(いのちのことば社)、「聖なる生涯を慕い求めて―ケズィックとその精神―」(教文館)、「真のキリスト者への道」(いのちのことば社)など。