愛による全面受容と心の癒しへの道(84)
峯野龍弘牧師
第5章 心傷つき病む子供たちの癒しへの道
Ⅵ. アガペーによる全面受容とその軌跡(自立への7ステップ・法則)(前回に続く)
■アガペーによる全面受容の軌跡と癒しへの7ステップ(法則)
<ステップ3> 深みの安息の実現
さてここでさらに次のステップに進みましょう。次は、「深みの安息の実現」と言うステップです。この「深みの安息の実現」は、心傷つき病んでいたウルトラ良い子たちの癒しの上で極めて重要なプロセスです。これは彼らが確実に癒されつつあることの顕著な証明であり、目印でもあります。前項で述べた「充足感の到来」を経験した彼らが、更に継続してこの充足感を味わい続けると、次にはそれが遂に彼らの心の深みに安息状態を生み出します。この心の安息状態は、長い間彼らをいらだたせ悩ませて来た、極度の不安感や焦燥感、イラ切れ症状やパニック症状から彼らを守り、心穏やかに人間関係を結び易くしてくれます。このことによって彼ら本人はもとより、周囲の家族や人々にも安息を齎(もたら)すことが出来るのです。それゆえ「アガペーによる全面受容」により、「心の満足感と充足感」を継続して与え続けることによって、遂に彼らの心に「深みの安息」を実現させて行くことが、如何に重要であり、素晴らしいことかがお分かり頂けると思います。
しかし、ここまでに至るためには、しっかりと積み上げられ持続した「アガペーによる全面受容」の長き日々が不可欠です。そこには当然ながら愛の忍耐と自己犠牲の甘受が必要です。決して一朝一夕でなるものだと安易に考えてはなりません。勿論、時としては以前にも申し上げましたように、「アガペーの全面受容」を始めてから、日ならずしてまさに奇蹟が起きたと思えるような速やかな癒しが齎されることもあります。これこそ「アガペーによる全面受容」効果の顕著な典型的事例と言えましょう。しかし、多くの場合はそうではありません。そこにはそれぞれのケースに応じた、それ相応の時間を要します。それは概して言うならば、その心傷つき病んでいる子どもたちの心傷つき病んで来た時間経過に比例し、心傷ついた症状の軽重に比例します。
③第三は、「同志による励まし」です。
この「同志の励まし」くらいケアーに当たる両親や従事者にとって、慰めと励ましになることは他にありません。長く受容を続けなければならないケアーに当たる者にとっては、しばしば極度の孤独に陥ることがあるでしょう。所詮、他者に肩代わりしてもらうことも出来ず、どこまでも一人でその重荷を担い続けなければならないのかを思うと、途方に暮れてしまうこともあるでしょう。折角心傷つき病んでしまっていた我が子のために耐え忍び、やっとのことでここまで僅かずつでも信頼関係を回復して来たのだが、この先いつまでこの状態が続くかと思う時、孤独どころではなく絶望的にさえなってしまうこともあると思います。
しかし、このような時に自らと同じような境遇にある仲間や、既にそのような体験をしてそれを克服して来た先輩たちが身近にいて、相互にその体験を分かち合い、励まし合うことが出来たとしたら、どんなにか慰められ励まされ、助けになるかしれません。小僕はこれを「同志による励まし」と呼んでいます。このような「同志」が与えられる時、自分が今一人だけでこのような試練・苦しみの中を辿っているのではなく、彼らも同様な試練と苦しみに遭遇しているのだ、のみならず既にそれを越えて試練と苦しみに打ち勝ち、今や勝利の安息と喜びの中に憩っている仲間たちが共にいて自分を見守り、このように自らのために親身になってスクラムを組んでいてくれるのだと思うと、孤独感が吹き飛び、希望と勇気が湧いてきます。
そこで一人で悩み苦しみ、孤独感や絶望感に苛まれている方々がおられるなら、ぜひ「同志による励まし」に出会ってください。ちなみに小僕は、今日までに各地で「アガペー・ファミリー・ケアー・センター」(通称AFCC)主催のセミナーを開催してきましたが、ここはまさにそのような「同志」と出会い、「仲間」を見出す絶好の場です。のみならずいつしか彼らは「同志」、「仲間」を越えて「アガペー・ファミリー」と呼び合うまでになっています。
かくしてこのような深くて強い交わりと結束の中で、心傷つき病んでいる子供たちを全面受容して行くことが可能となるのです。実にAFCCの月例の会合を通して、またここで結ばれた「同志」・「仲間」・「ファミリー」たちが日毎夜ごと常に相互に連絡を取りながら慰め合い、励まし合い、祈り合いつつ、支え合い、助け合って共に立ち上って行く様子は、何と麗しく頼もしいことでしょう。このような営みや関係が今日如何に必要なことでしょう。もっともっと全国各地でこうした「同志による励まし」のネットワーク作りが促進されたなら、今日における日本社会の悲劇が食い止められるに違いありません。(続く)
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峯野龍弘(みねの・たつひろ)
1939年横浜市に生れる。日本大学法学部、東京聖書学校卒業後、65年~68年日本基督教団桜ヶ丘教会で牧会、68年淀橋教会に就任、72年より同教会主任牧師をつとめて現在に至る。また、ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会および同教会の各地ブランチ教会を司る主管牧師でもある。
この間、特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン総裁(現名誉会長)、東京大聖書展実務委員長、日本福音同盟(JEA)理事長等を歴任。現在、日本ケズィック・コンベンション中央委員長、日本プロテスタント宣教150周年実行委員長などの任にある。名誉神学博士(米国アズベリー神学校、韓国トーチ・トリニティー神学大学)。
主な著書に、自伝「愛ひとすじに」(いのちのことば社)、「聖なる生涯を慕い求めて―ケズィックとその精神―」(教文館)、「真のキリスト者への道」(いのちのことば社)など。
⑪感謝、賞賛の言葉を豊かに注ぐ 自尊心の回復