愛による全面受容と心の癒しへの道(71)
峯野龍弘牧師
第5章 心傷つき病む子供たちの癒しへの道
III. アガペーによる全面受容の癒しの道
2) アガペーによる全面受容の癒しが成されるための具体的な道
■癒しへの具体的な道(前回に続く)
①子供への謙遜にして真摯な謝罪と告白 加害者告白
②子供の要求を無条件で全面的に受容することによる和解と真摯な受容の証明
③どこまでも受容し続けなければならい不断の受容
➃ 決して子供の行動を規制せず、積極的に支援する覚悟と決断
⑤ “生産的積極的肯定”こそ受容の後押し
⑥ 決して是々非々を言わず、正論をもって抑圧せず
⑦ 断じて他者と比較せず、他者を非難しない
⑧「同心・同歩・同行」先走らず、遅れず、寄り添いながら
⑨禁止、奨励、命令の言葉は禁物
⑩自尊心を傷つけない
⑪感謝、賞賛の言葉を豊かに注ぐ 自尊心の回復
⑫、要求に対するプラスα(アルファー)のゆとりある応答
そうです。そこには見事に「アガペーによる全面受容の癒し」が成し遂げられていたのです。アガペーをもって全面受容する時、受容されたウルトラ良い子たちの傷つき病んでいた心にその瞬間から安息が訪れ、徐々に癒しが始まるものなのです。とりわけ、この「ゆりかさん」の場合には、すでに母親の心の内に充分な悔い改めと謙遜な自己認識が生じ、我が子の癒しのためにはいかなる自己犠牲をも甘受してでも全面受容し、とことん娘を受け入れて行こうとの固い決意が芽吹いていました。それゆえ、この時に至るまでにも何度も「アガペーによる全面受容」を試み、それを積み重ねて来ていました。それゆえ「ゆりかさん」の心はかなり癒されつつあったのでした。そんな癒しの途上にあった「ゆりかさん」に対して、今やその母親がただ全面受容をしたばかりではなく、彼女の要求を遥かに超えて大きなプラス・アルファーをもって、ゆとりある全面受容を示してくれたものですから、この行為によって「ゆりかさん」は、お母さんの心を長い間支配していた世俗的価値観が今や全く砕かれ、そこには全きアガペーが息づき、そのアガペーをもって自分が心底より愛され受け容れられていることを体感し、もはや何の抑圧を受けることもなくなったことを直感したのでした。そればかりではなく「ゆりかさん」は、この瞬間自分が母親によって深く愛され尊ばれていることを素直に受け容れることができ、自分がものすごく幸せに思えるようになったのでした。この時、「ゆりかさん」は長い間自らを支配していた恐るべき抑圧やトラウマ、異常心理や異常行動から完全に解放され、見事に癒されたのでした。それはまさに周囲の人々の目には、あたかも奇跡でも起ったかのごとく思われましたが、これは決して奇跡でも何でもなく、「アガペーによる全面受容の癒しの法則」によるものでした。
人は全きアガペーによって受容される時、もはやそれ以外の何物もほしいとは思わないほどまでに、その心が充足するものなのです。「ゆりかさん」は、この母親のプラス・アルファーのアガペーの全面受容に与った時、その満足感・充足感を満喫したのでした。その時、もはや愚にもつかない子供じみた奇抜な衣服を身に着けて喜ぶと言ったような馬鹿げた行動は、彼女の心の中から見事に消え去ってしまったのです。
これがまさしく心傷つき病めるウルトラ良い子の“要求に対してプラスαのゆとりをもって成す応答”の癒し効果と言えましょう。相手が要求したことに寄り添い、愛をもってそのとおり応えて上げること自体素晴らしいことなのですが、それを相手が要求した以上にプラス・アルファーして、ゆとりをもって応えて上げる時、そこには義務感や仕方なしにする善行を超えた本当の愛や真実を相手が感じ取ることができるのです。とりわけウルトラ良い子たちは、親たちの本当の愛や真実を確かめたいのです。彼らはそれほどまでに本物の愛や真実に飢え渇いていたのです。それがこのプラス・アルファーの愛の行為によってはじめて確認できた時、彼らは見事に癒されるのです。ですから愛する子らを癒したければ、大いにアガペーによる全面受容に勤めると共に、プラス・アルファーのゆとりある愛をもって応答して行こうではありませんか!(続く)
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峯野龍弘(みねの・たつひろ)
1939年横浜市に生れる。日本大学法学部、東京聖書学校卒業後、65年~68年日本基督教団桜ヶ丘教会で牧会、68年淀橋教会に就任、72年より同教会主任牧師をつとめて現在に至る。また、ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会および同教会の各地ブランチ教会を司る主管牧師でもある。
この間、特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン総裁(現名誉会長)、東京大聖書展実務委員長、日本福音同盟(JEA)理事長等を歴任。現在、日本ケズィック・コンベンション中央委員長、日本プロテスタント宣教150周年実行委員長などの任にある。名誉神学博士(米国アズベリー神学校、韓国トーチ・トリニティー神学大学)。
主な著書に、自伝「愛ひとすじに」(いのちのことば社)、「聖なる生涯を慕い求めて―ケズィックとその精神―」(教文館)、「真のキリスト者への道」(いのちのことば社)など。
⑪感謝、賞賛の言葉を豊かに注ぐ 自尊心の回復