愛による全面受容と心の癒しへの道(70)

峯野龍弘牧師

第5章 心傷つき病む子供たちの癒しへの道

III. アガペーによる全面受容の癒しの道

2) アガペーによる全面受容の癒しが成されるための具体的な道

■癒しへの具体的な道(前回に続く)

①子供への謙遜にして真摯な謝罪と告白 加害者告白

②子供の要求を無条件で全面的に受容することによる和解と真摯な受容の証明

③どこまでも受容し続けなければならい不断の受容

➃ 決して子供の行動を規制せず、積極的に支援する覚悟と決断

⑤ “生産的積極的肯定”こそ受容の後押し

⑥ 決して是々非々を言わず、正論をもって抑圧せず

⑦ 断じて他者と比較せず、他者を非難しない

⑧「同心・同歩・同行」先走らず、遅れず、寄り添いながら

⑨禁止、奨励、命令の言葉は禁物

⑩自尊心を傷つけない

⑪感謝、賞賛の言葉を豊かに注ぐ 自尊心の回復

⑫、要求に対するプラスα(アルファー)のゆとりある応答

では、更に次に心に留めるべきことは何でしょう。それは「要求に対するプラスαのゆとりある応答」と言うことです。これまた心傷つき病んでしまっているウルトラ良い子たちを癒し、その心に信頼と安息をもたらすために有効な極めて有益な心得です。これによって長い間固く閉ざされていた彼らの心を溶かし、開かせることが出来ます。これは彼らとの間の良きコミュニケーションを生み出したり、回復・再開させたりするのに、極めて重要かつ有効な心の手続きです。では、その詳細について説明いたしましょう。

たとえばクライアントであるその子供が、母親に何かがほしいとか、何々をしてほしいと要求(要請)した場合に、条件を付けず、出来る限り全面受容し、それに応えてほしいということを前述しましたが、これはそれを更に一歩も二歩も深く踏み込んで、相手が要求したその要求の範囲内を超えて、それにプラスαして応答してあげるのです。これは実際にある多くの方々の体験なのですが、ある母親に心傷つき病んでいた娘さんが、「お母さん、私タレントの○○さんが着ているような、あのフリフリ付きの洋服がほしいの」と要求しました。その母親は、今日までにこの種の要求を次々と出され、ほとほと閉口していました。小僕の主宰するセミナーに参加し、「アガペーによる全面受容の癒しと奇跡」と言う講座を受講する以前までは、常にこの種の要求を巡って、争いが絶えませんでした。ところが、これを受講した後、極力全面受容するようにしました。すると徐々に僅かながら、以前に比べて要求する回数が減ってきました。ところがその日はいつもにも優って高額な、しかも親としては恥ずかしくなるような奇妙な衣服の購入を要求して来ました。一瞬躊躇しましたが、「“アガペー”による全面受容の癒しと奇跡」の話を思い出し、出来るだけやわらかい微笑みをもって、「あらそう、分かったわ。ちなみにいくら位するの?」「2万3千円だって…」「そう、それなら交通費もいるし、お茶も飲みたいでしょうし、もし値上がりでもしていたらいけないので、3万円持っていったら。お母さんがアルバイトでもして頑張るから!」と明るく応えて上げたのでした。その日、奇跡はおきました。嬉しそうに買い物に出かけたお嬢さんが夜になって、家に戻って来ました。如何にも満足そうに、しかし、手には何一つ買い物らしきものは持っていませんでした。「ゆりか(仮名)、どうしたの、買えなかったの?」「ううん…。もういらないの。お金返すわ!ありがとう!」彼女は、笑顔でこう答えたのでした。(続く)

峯野龍弘(みねの・たつひろ)

1939年横浜市に生れる。日本大学法学部、東京聖書学校卒業後、65年~68年日本基督教団桜ヶ丘教会で牧会、68年淀橋教会に就任、72年より同教会主任牧師をつとめて現在に至る。また、ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会および同教会の各地ブランチ教会を司る主管牧師でもある。

この間、特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン総裁(現名誉会長)、東京大聖書展実務委員長、日本福音同盟(JEA)理事長等を歴任。現在、日本ケズィック・コンベンション中央委員長、日本プロテスタント宣教150周年実行委員長などの任にある。名誉神学博士(米国アズベリー神学校、韓国トーチ・トリニティー神学大学)。

主な著書に、自伝「愛ひとすじに」(いのちのことば社)、「聖なる生涯を慕い求めて―ケズィックとその精神―」(教文館)、「真のキリスト者への道」(いのちのことば社)など。

感謝、賞賛の言葉を豊かに注ぐ 自尊心の回復