愛による全面受容と心の癒しへの道(67)
峯野龍弘牧師
第5章 心傷つき病む子供たちの癒しへの道
III. アガペーによる全面受容の癒しの道
2) アガペーによる全面受容の癒しが成されるための具体的な道
■癒しへの具体的な道(前回に続く)
①子供への謙遜にして真摯な謝罪と告白 加害者告白
②子供の要求を無条件で全面的に受容することによる和解と真摯な受容の証明
③どこまでも受容し続けなければならい不断の受容
➃ 決して子供の行動を規制せず、積極的に支援する覚悟と決断
⑤ “生産的積極的肯定”こそ受容の後押し
⑥ 決して是々非々を言わず、正論をもって抑圧せず
⑦ 断じて他者と比較せず、他者を非難しない
⑧「同心・同歩・同行」先走らず、遅れず、寄り添いながら
⑨禁止、奨励、命令の言葉は禁物
それでは次に進むことにいたしましょう。次に更によくよく注意しなければならないことは、極度の抑圧を受け心傷つき病んでしまっているウルトラ良い子に向かって、「禁止」、「奨励」、「命令」の言葉を発することは、絶対に禁物であるということです。この子たちはすでに長い間、このような言葉がけを受け続けて来ており、すっかりこれらの言葉に怯え、それゆえまたしてもこれらの言葉を聞かされると極度の緊張と抑圧(プレッシャー)、更には恐怖さえ感じるようになってしまっているのです。のみならず極度の嫌悪感や反発心、更には激しい憤りや苛立ちを惹き起こしてしまい、遂にはいきなり怒鳴り声を上げたり、暴力を振るったりするに至ってしまします。健常な子供たちには、このような「禁止」、「奨励」、「命令」は、その健全成長のために極めて必要かつ有益で、効果のあるものですが、一旦深く心傷つき病んでしまった子供たちには、これほど有害にして不利益、かつ効果のない無駄な言葉がけはないでしょう。それなのに如何に多くの人々が、いつになってもこの極めて不幸な事実に気づくことなく、連綿といつまでもこの過ちを繰り返していることでしょう。果たして読者の皆様はこの点において、いかがでしょうか?
さて、ちなみに「禁止」とは、「あれはしてはならない」、「これはだめだ」と言うような否定的抑止を意味します。この否定的抑止は、抑圧のゆえにすでにトラウマ状態にある彼らの心を更に抑圧し、何よりも回復されなければならない滅却してしまっている彼らの自尊心を、更に傷つけてしまします。それゆえ前述したような様々な有害にして不利益なマイナス効果を生み出してしまう結果になるのです。
そして更に「奨励」とは、第一に「~すべきだ」、「こうあるべきだ」、「これこれした方がよい」と言うような勧告的指示行為を意味し、第二には「~だから頑張れ」とか「もっとこうすれば上手く行く」、「怠けずにしっかり励めば必ず良くなる」と言ったような激励的指示行為を意味します。これまた前者同様に折角彼らなりに何かを気づき始めて励んだにも拘わらず、それを好意をもって受け止め、評価してはもらえず、いかにも不満足そうに、なおも追い打ちをかけるが如く、更には鞭打つかのように勧告・激励し、なすべきことを方向指示される時、彼らの自尊心は傷つけられてしまうのです。
そして「命令」とは、「~しなさい」とか「~しなければならない」と言ったような、ただ相手の命じるところ、要請するところに一方的に、追従・服従を要求される選択不能な断定的強要を意味しているのです。このような選択不可能な一方的かつ断定的強要を強いられるとき、心傷つき病んでいるウルトラ良い子たちは、全く癒さる暇もなく、ますます深く傷つき病んで行ってしまうのです。
ですから「禁止」、「奨励」、「命令」は、アガペーによる全面受容をもって成す癒しの道に逆行する決して成してはならない危険行為なのです。まさに禁物以外の何物でもありません。おお、ご両親方よ、心傷つき病んでいる我が子を癒したいならば、断じて「禁止」、「奨励」、「命令」の危険行為を成してはなりません。よくよくこれまた肝に銘じておいて頂きたいものです。(続く)
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峯野龍弘(みねの・たつひろ)
1939年横浜市に生れる。日本大学法学部、東京聖書学校卒業後、65年~68年日本基督教団桜ヶ丘教会で牧会、68年淀橋教会に就任、72年より同教会主任牧師をつとめて現在に至る。また、ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会および同教会の各地ブランチ教会を司る主管牧師でもある。
この間、特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン総裁(現名誉会長)、東京大聖書展実務委員長、日本福音同盟(JEA)理事長等を歴任。現在、日本ケズィック・コンベンション中央委員長、日本プロテスタント宣教150周年実行委員長などの任にある。名誉神学博士(米国アズベリー神学校、韓国トーチ・トリニティー神学大学)。
主な著書に、自伝「愛ひとすじに」(いのちのことば社)、「聖なる生涯を慕い求めて―ケズィックとその精神―」(教文館)、「真のキリスト者への道」(いのちのことば社)など。