愛による全面受容と心の癒しへの道(86)

峯野龍弘牧師

第5章 心傷つき病む子供たちの癒しへの道

Ⅵ. アガペーによる全面受容とその軌跡(自立への7ステップ・法則)(前回に続く)

■アガペーによる全面受容の軌跡と癒しへの7ステップ(法則)
<ステップ5>冷静で客観的な自己の正しい位置付けの始動―謙虚な自己認識と自己受容の胎動―

さて第五のステップは、「冷静で客観的な自己への正しい位置づけ」が始動し始めることです。これは別の表現をすれば「謙虚な自己認識と自己受容の胎動」ということになります。そもそも心傷つき病んでしまっているウルトラ良い子たちは、冷静に自らを見つめたり、客観的に言動を発したり、自分自身を制したりすることが出来ません。彼らは多くの場合、極端な両極の自己認識を持っています。一つは、自己の考えを絶対視し、自分こそ正しい人間であって、正しい主張をしていると誇示し、他者を批判し、他人の意見や言葉に耳を傾けようとしません。そうかと思うと、他面においては極端に自己を卑下し、他者に対して強いコンプレックスを抱き、自分などはどうせろくでもない人間であって、生きている意味がない。自分を正当に評価し、理解してくれる人はどこにもいない。いっそのこと死んだ方がましだなどと自己否定的な考えに落ち込んでしまいます。概して彼らの内にはこの相入れないはずの極端な考えが同居し、混在しています。彼らがその時置かれている状況次第によって、このいずれかの考え方が顔を出すのです。実は彼らのこのようないずれの考え方も、先に何度も繰り返し申し上げて来た世俗的価値観による極度の抑圧の結果であると言っても過言ではありません。世俗的価値観に抑圧され心傷つき病んでしまった彼らは、悲しいかな強いコンプレックスが心の深層に存在し、自己が相手によって支配されないようにと異常なほど相手や周りの者に対して虚勢を張り、自己を高揚させて他者を制することによって、自分自身の傷つくことと落ち込むことを防御しているのです。その反対にそのような防御態勢を取ることが出来ない場合は、後者のような極度の自己卑下や自己否定をするのです。しかし、この場合も実は、これまた悲しいかな彼らの心の深層には、他者の批判やさげずみから自己を守るため、あえて他者に先駆けて自らを引き落とすことに、他者からの非難をかわし、また他者によって自らが惨めな思いにさせられないように自衛しているのです。何という辛く悲しい彼らの心情でしょう。しかも、彼らは自らこのように自覚し、意識してやっているのではありません。その場合、彼らはそんな冷静さを持ち合わせてはいないのです。無意識のうちに条件反射的に、いわば自衛本能が作動したかのようにこのような反応を示すのです。このような悲しい彼らの心理を、果たしてどれだけの人々が理解していたでしょうか? ところが何と幸いにして素晴らしいことには、このような彼らが豊かな「アガペーによる全面受容」の内に迎えられ、ケアーされることにより癒され始めると、その癒しに正比例して「冷静で客観的な自己への正しい位置づけ」が出来るようになり、極度の自己誇示も、その反対に極度の自己卑下もしないようになり、冷静にして、かつ客観的に自己を見つめ、自分が何を言い、何をなすべきであるのかを正しく判断し、他者の如何にかかわらず自らの正しい位置づけが出来るようになるのです。つまり自己と真直ぐに向き合い、謙虚に自己を見つめ、ありのままの自分を受容することが出来るようになるのです。これが「謙虚な自己認識と自己受容の胎動」と言うことです。何と幸いにして、素晴らしいことではありませんか。「アガペーによる全面受容」は、彼らをしてここで辿り着かせてくれるのです。ですからどこまでも「アガペー」し続けようではありませんか。

とりわけ前述した「ゆとりの造成」が充分になされる時、次にはこのような「冷静で客観的な自己の正しい位置付け」を彼らがなし、謙虚な自己認識と自己受容が胎動するまでになるのです。ですからこのような日の到来を楽しみに待ちわびながら、しっかりと各スッテプを踏み外さず、“ステップby ステップ”登りつめて行こうではありませんか。決して焦ってはなりません。疑いを起こしてはなりません。これらのステップは、あたかも法則のようなものです。ですから必ず辿り着くことが出来るのです。遅くなることもありません。聖書の中にこんな良い言葉があります。

「それは終わりの時に向かって急ぐ。人を欺くことはない。たとえ遅くても、待っておれ。それは必ず来る。遅れることはない。」(ハバクク2:3)(続く)

峯野龍弘(みねの・たつひろ)

1939年横浜市に生れる。日本大学法学部、東京聖書学校卒業後、65年~68年日本基督教団桜ヶ丘教会で牧会、68年淀橋教会に就任、72年より同教会主任牧師をつとめて現在に至る。また、ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会および同教会の各地ブランチ教会を司る主管牧師でもある。

この間、特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン総裁(現名誉会長)、東京大聖書展実務委員長、日本福音同盟(JEA)理事長等を歴任。現在、日本ケズィック・コンベンション中央委員長、日本プロテスタント宣教150周年実行委員長などの任にある。名誉神学博士(米国アズベリー神学校、韓国トーチ・トリニティー神学大学)。

主な著書に、自伝「愛ひとすじに」(いのちのことば社)、「聖なる生涯を慕い求めて―ケズィックとその精神―」(教文館)、「真のキリスト者への道」(いのちのことば社)など。

感謝、賞賛の言葉を豊かに注ぐ 自尊心の回復