愛による全面受容と心の癒しへの道(74)
峯野龍弘牧師
第5章 心傷つき病む子供たちの癒しへの道
III. アガペーによる全面受容の癒しの道
2) アガペーによる全面受容の癒しが成されるための具体的な道
■癒しへの具体的な道(前回に続く)
⑭大きなリスクの甘受と大きな自己犠牲こそ受容の王道
さて、次に更に申し上げたいことはアガペーによる全面受容の癒しの実現のためには、受容者のリスクの甘受と自己犠牲の甘受が必須と言えましょう。しかも大きなリスクを甘受したり、また大きな自己犠牲を余儀なくさせられたようなときに、それを甘受した時の癒し効果は並なものではありません。そこには、被受容者である心傷つき病んでいたウルトラ良い子たちにとって、より大きなアガペーを感じ取ることが出来るからです。あえて言うならばリスクを負うこともなく、自己犠牲も払うことのないようなところには、“アガペー”は生まれず、“アガペー”は存在しないとさえ言っても過言ではありません。こうも言うことが出来るでしょう。「アガペーがあるところには自己犠牲の甘受があり、自己犠牲の甘受あるところにはアガペー息づいている」と。そこでいま一度、ご一緒に“アガペー”の定義を口ずさんでみましょう!覚えておられますか?
そもそも“アガペーとは、相手のために、しかも自らに敵対し、不利益を与える相手のためにさえ、あえて自己犠牲を甘受して、その相手の祝福のために、献げ仕えて行く、何一つ見返りを期待しない、心と生活である”でした。ここでは「自己犠牲の甘受」こそは、“アガペー”が実現するための必須の中心的要素となっています。“アガペー”は、決して単なる「忍耐すること」や、ましてや「我慢する」こととは違います。「忍耐」や「我慢」の範疇では、この不利益や相手の敵対行為を甘受したりする大なるリスクは決して担いきれません。しかし、そこにもしそのような相手をもなおも惜しみ、深く憐れみ慈しむ深みの愛が存在するならば、その人はその哀れな相手をなおも受容し続けようとし、あえてそのような相手のために自己を投じて捨て身でその相手を救おうとすることでしょう。そこにはまさに献身的、更には殉教的覚悟を持ったより積極的な、あえて「自己犠牲を甘受する」“アガペー”が息づいています。この“アガペー”こそが、実に驚くべき癒し効果をもたらすのです。そこには人間の通常の理解や常識をはるかに超えた、不思議な出来事が起こり得るのです。時には、人々はそれを見て「奇蹟が起こった!」と喜び叫ぶことさえあり得るのです。小僕は、これを“アガペー”のもたらす人知をはるかに超えた「神的力」と呼んでいます。私はこれを率直に、人間のここまで純化された心と生き様をご覧になられた、目に見えざる全能の神の悩める人間へのご介入、つまり「神の恵み」、「神の御業」とも呼んでいます。そして、すでに先にも申し上げましたが、これは「奇蹟」ではなく、「アガぺーの法則」です。「真の“アガぺー”の行くところには、必ずこの恵と神の御業は顕われる」と確信している者の一人です。ですから皆さんにもそう確信して「アガペー道」をひたすら走り続けてほしいのです。そうです。そう確信して進むところに希望が、そしてその希望は勇気を、そしてその勇気はさらに不思議と、一切の不安や恐れを心の中から駆逐して、“アガペー”を貫き通す力となるのです。
心傷つき病んでいたウルトラ良い子たちは、彼らの生まれながらにして付与されていた純粋感性が、このような大なるリスクや大きな自己犠牲をさえ、あえて甘受して自らに尽くしてくれる親たちの“アガペー”に触れた時、長い間極度の抑圧のゆえに冬眠状態のようになっていた彼らの心の内から身を覚まし、死んでいたような彼らの生まれながら付与されていたウルトラ感性が甦り、彼の傷つき病んでいた心を癒し始めるのです。何という不思議、何という素晴らしい恵みでしょうか!ご両親方、この世にはこのように不思議なこと、素晴らしい恵みがあることを信じられますか?そうです、あるのです。是非、信じてください。こう信じて歩みだしたその瞬間から、皆さんの心に不思議な平安と希望が光のように差し込むに違いありません。祝福あれ!(続く)
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峯野龍弘(みねの・たつひろ)
1939年横浜市に生れる。日本大学法学部、東京聖書学校卒業後、65年~68年日本基督教団桜ヶ丘教会で牧会、68年淀橋教会に就任、72年より同教会主任牧師をつとめて現在に至る。また、ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会および同教会の各地ブランチ教会を司る主管牧師でもある。
この間、特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン総裁(現名誉会長)、東京大聖書展実務委員長、日本福音同盟(JEA)理事長等を歴任。現在、日本ケズィック・コンベンション中央委員長、日本プロテスタント宣教150周年実行委員長などの任にある。名誉神学博士(米国アズベリー神学校、韓国トーチ・トリニティー神学大学)。
主な著書に、自伝「愛ひとすじに」(いのちのことば社)、「聖なる生涯を慕い求めて―ケズィックとその精神―」(教文館)、「真のキリスト者への道」(いのちのことば社)など。
⑪感謝、賞賛の言葉を豊かに注ぐ 自尊心の回復