愛による全面受容と心の癒しへの道(104)

峯野龍弘牧師

第7章 「ウルトラ良い子」を健全に育てるための「アガペー育児法」

Ⅲ、第2期 3歳から6歳までの幼児期後半の幼児教育(前回からの続き)

A.人間関係における調和の精神と感性の育成
2 如何にして愛することの大切さを教えたらよいのか。(前回に続く)

先般、一人の方と面談しました。その人は「私は子育てに失敗してしまいました。私は子供をどう愛したら良いのか分からないのです。私は一生懸命我が子を愛して育ててきたつもりでした。しかし、子供は私に反抗し、私を激しく罵りこう言ったのです。『お母さんは、わたしを愛しているとよく口癖のように恩着せがましく言うが、わたしはお母さんから愛されていると感じたことは、ただの一度もないわ。愛しているならどうしてもっとわたしの気持ちを理解し、わたしに自由をくれないの!』と。私はこの子供の言葉を聞いて大きなショックを覚えました。そして、今更のように痛感することがありました。それは、実は私が子供をどう愛せばよいのかわからなかったのです。なぜなら、私自身が親から一度も愛されたという経験がなかったからでした」と。

そうです。この婦人は夫婦仲の悪い両親の許で育ち、始終夫婦喧嘩を見せつけられる中で過ごし、のみならず、絶えず気性の激しい母親の苛立つ言葉を浴びせられながら育ってきた女性でした。極めてお気の毒な境遇であったと言う他ありません。

ですから、夫婦仲睦まじく、愛の内に子育てをすることがどんなにか大切かお分かりいただけると思います。両親から、とりわけ母親から多く愛された子供は何と幸いなことでしょう。そうされることによって、子供たちは確実に「愛すること」「愛されること」の大切さを理解し、何よりもその喜びと幸せを自ら体験し、それを他者との間で生かして、麗しい人間関係を結ぶことが出来るようになるのです。

ⅲ.ではどのように愛したら良いのでしょうか。

つまり如何にしたら子供に愛が伝わり、子供が愛されたことを知るようになれるのでしょうか。言うまでもなくそれは「アガペー」することなのですが、それを実践するにはどのような点に留意し、どのように具体的に現わしていくことが出来るのでしょうか。それは以下のような諸点に留意し、実践して行けばよいのです。

(1)何よりも先ず第一に留意すべきことは、「子供を大事にする」ことです。分かり切ったことのようですが、この分かり切ったことこそ極めて重要で忘れてはならない常時不断の心がけなのです。「子供を大事にする」ことは、大切な子供として自分が親に受け入れられ、尊ばれ、価値づけられていることを子供が体感し、そこに両親の愛を実感していくことが出来るからです。

(2)第二は「常に寄り添い、共にいる」ことです。この時、子供の心は安息し、不安を覚えることなく安心できるのです。特に母親の胎内で10か月間過ごして来た子供たちは、本能的にと言っても過言でないほど母親の存在を体感し、その声の響きを実感しているのです。ですから、その母親が傍にいてその声が聞こえる時、不思議とその心が安息するのです。そうでない時には、「見捨てられ感」「見放され感」が彼らを襲います。ですから、親が「寄り添い、共にいる」時、彼らは「見捨てられていない」「見放されていない」、つまり「愛されている」と感じ取ることが出来るのです。

ところが、現代においては多くの母親が、「早く乳離れ、親離れすことが出来るように育てることこそ、良い子育ての道である」と勘違いして、多くの子供たちが「潜在的見捨てられ症候群」に陥れられているのです。特に繊細な感性を持つウルトラ良い子たちにおいては、なおさらのことです。子供が徐々に社会性を取り込み、自立するまではよくよくこの点に留意しなければなりません。

(3)第三は「子供の話をよく聞く」ことです。つまり子供の言うことによく耳を傾け、それ以上に子供の心の声によくよく耳を傾け、聞き分けることです。今日最も多い失敗は、両親特に母親が、愛しているつもりで闇雲に我が子に多くの忠告を与えたり、教え諭そうとすることです。「愛は、先ず聞くことに始まる」と言われますが、これまた至言です。愛はそもそも相手の心、相手の事情、相手の計画等を良く知って、そこに仕えていくことでもあるのですから、子供の言い分、子供の叫び、子供の願い、その他何よりも子供の処理したいとひそかに願っている心の悩みを含めて、その声に耳傾け、それに愛の手を差し伸べるところから愛のコミュニケーションが始まることを忘れてはなりません。(続く)

峯野龍弘(みねの・たつひろ)

1939年横浜市に生れる。日本大学法学部、東京聖書学校卒業後、65年~68年日本基督教団桜ヶ丘教会で牧会、68年淀橋教会に就任、72年より同教会主任牧師をつとめて現在に至る。また、ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会および同教会の各地ブランチ教会を司る主管牧師でもある。

この間、特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン総裁(現名誉会長)、東京大聖書展実務委員長、日本福音同盟(JEA)理事長等を歴任。現在、日本ケズィック・コンベンション中央委員長、日本プロテスタント宣教150周年実行委員長などの任にある。名誉神学博士(米国アズベリー神学校、韓国トーチ・トリニティー神学大学)。

主な著書に、自伝「愛ひとすじに」(いのちのことば社)、「聖なる生涯を慕い求めて―ケズィックとその精神―」(教文館)、「真のキリスト者への道」(いのちのことば社)など。