愛による全面受容と心の癒しへの道(69)

峯野龍弘牧師

第5章 心傷つき病む子供たちの癒しへの道

III. アガペーによる全面受容の癒しの道

2) アガペーによる全面受容の癒しが成されるための具体的な道

■癒しへの具体的な道(前回に続く)

①子供への謙遜にして真摯な謝罪と告白 加害者告白

②子供の要求を無条件で全面的に受容することによる和解と真摯な受容の証明

③どこまでも受容し続けなければならい不断の受容

➃ 決して子供の行動を規制せず、積極的に支援する覚悟と決断

⑤ “生産的積極的肯定”こそ受容の後押し

⑥ 決して是々非々を言わず、正論をもって抑圧せず

⑦ 断じて他者と比較せず、他者を非難しない

⑧「同心・同歩・同行」先走らず、遅れず、寄り添いながら

⑨禁止、奨励、命令の言葉は禁物

⑩自尊心を傷つけない

⑪感謝、賞賛の言葉を豊かに注ぐ 自尊心の回復

さて、ここまではアガペーによる全面受容の癒しの道を、心傷つき病んでしまった子供たちの癒しのために、絶対してはならない避けるべき事柄を中心に、「~をしてはならない」と言う否定的な側面から記述してきましたが、ここからは積極的に大いに心掛けしてほしい「~をしなさい」と言う肯定的側面から、以下のような諸点を述べてみたいと思います。

その第一は、心傷つき病んでしまっている彼らの癒しのために、大いに彼らに感謝の言葉、賞賛の言葉を降り注ぐ慈雨のように、豊かに注いであげてほしいのです。実に彼らの心は、長い間雨がなく乾き切ってしまっていた大地や草木のように、感謝と賞賛の言葉と言う“恵みの雨”を待望していたのです。彼らはいつしか世俗的価値観から来る人間評価の日照りに遭遇し、物心のついた幼い日から今日までにその心と霊が強い抑圧によって干上がってしまっていたのです。彼らが日々両親から聞かされる言葉は、「命令」、「奨励」、「禁止」の言葉ばかりです。のみならず挙句の果てには彼らの自尊心を傷つけてやまない極めて悲しい彼らを裁き、断罪する言葉ばかりです。たとえば、「お前は何でそんなことすらできないのか」、「ほかの子を見てごらん。あんなに良く出来るじゃないの」、「それはお前が怠けていて、努力しないからだ」、「人は頑張れば何でもできる」、「あなたは相当の分からず屋ね、親の言うことを聞きなさい」、「お前は強情パリの意気地なしだ。根性が腐っている」、「豆腐の角に頭でもぶっつけて死んでしまえ!」、「そんなあなたを生んだつもりはないわ」、果ては「ごくつぶし!貧乏神!」等々。 このように彼らは、まことに聞くに堪えない言葉を日常茶飯のように聞かされ続けて来たのでした。それゆえ前述もしましたように彼らの自尊心は、深く傷つき、そればかりかすでに崩壊してしまっているのです。ですから何よりもいち早くその癒しが必須であり、回復が必要なのです。

そこでその癒しと回復に最も有益かつ有効な良薬が、“感謝と賞賛の言葉がけ”なのです。それは乾き切った大地と草木に注ぐ慈雨の如く、彼らの傷つき病み、かつ崩壊してしまった心と霊魂に潤いと癒し、安息と回復を齎すのです。きっとまだ傷つき病んでしまっている渦中にある彼らには、感謝したり、賞賛したりする何物も見出し得ないでしょう。しかし、だからこそ、あえてそんな彼らに感謝の言葉や賞賛の“誉め言葉”が必要なのです。「アガペー」の心をもって、あえてにもかかわらず全面受容し、彼らの為したり、語ったりしたことの中から、ほんの些細な一事を取り上げて、「あら、ありがとう!うれしいわ」、「お前が家にいてくれたので、至急の小包を配達人が持ち帰らずに、助かったよ!」など、大いに機知を働かせて感謝の言葉や誉め言葉をかけてあげるのです。その時彼らの心と霊魂は、その言葉の中に「命令」、「奨励」、「禁止」の言葉とはおよそ正反対の裁かれず、抑圧されず、否定されることのないほのぼのとした温かい何ものかを感じ取り、今や感謝され、受け入れられ、温かく受容されている自分自身を再発見し、その瞬間彼らの心に小さな安息と幸福感が甦るのです。そこでこうした経験を繰り返し味あわせ続けて行くと、何と長い間彼らの内から失われていた自尊心が回復され始め、遂にはその心の癒しにつながるのです。天からの慈雨が大地に浸み込み、草木を甦らせるように、感謝の言葉と賞賛の言葉は、心傷つき病んでいる子供たちの心と霊魂、そして身体さえ蘇らせるのです。 この効果たるや素晴らしいものがあります。是非、これを試み、今日から実践してみてください。とは言え、一度や二度、三度でその効果を期待しないでください。効果を疑わず信じて、ひたすら持続してみてください。必ずあなたはその喜ばしい結果に出会うでしょう!祝福あれ!(続く)

峯野龍弘(みねの・たつひろ)

1939年横浜市に生れる。日本大学法学部、東京聖書学校卒業後、65年~68年日本基督教団桜ヶ丘教会で牧会、68年淀橋教会に就任、72年より同教会主任牧師をつとめて現在に至る。また、ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会および同教会の各地ブランチ教会を司る主管牧師でもある。

この間、特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン総裁(現名誉会長)、東京大聖書展実務委員長、日本福音同盟(JEA)理事長等を歴任。現在、日本ケズィック・コンベンション中央委員長、日本プロテスタント宣教150周年実行委員長などの任にある。名誉神学博士(米国アズベリー神学校、韓国トーチ・トリニティー神学大学)。

主な著書に、自伝「愛ひとすじに」(いのちのことば社)、「聖なる生涯を慕い求めて―ケズィックとその精神―」(教文館)、「真のキリスト者への道」(いのちのことば社)など。

感謝、賞賛の言葉を豊かに注ぐ 自尊心の回復